漫画感想ネタバレ 健康で文化的な最低限度の生活 面白い!おススメ!

いやー面白かった!

12巻まで漫画を読んだ。

現実の話を元にした漫画だからありがちな話で面白みに欠けるんじゃないかと最初は思っていたが全然そんなことはなかった。

生活保護が題材で小難しい話になりそうなのに、ただの制度の話にとどまることなく人間ドラマがあり、生活保護を求める者とケースワーカーとの間にある苦悩と葛藤が面白い。

そして読むまでは想像できなかった生活保護者達に驚かされる。
漫画が面白くなるようなキャラ設定はあと思うので現実を大げさにしている部分もあるかもしれない。しかし、虐待されている人、劣悪な家庭環境から心に傷がある少女、突然ぶち切れる精神が不安定な人、悪意のある不正受給者などおかれている状況も面白いし思いも寄らないそれぞれの表情がグサッと心を突き刺してくる。

エンタメの面白さだけでなく現実にも重なるシリアスな話でもあり物語としての深みも十分だと思えた。

漫画では実際に言われていそうな生活保護者へのきつい言葉が出てくる。

例えば、

「生活保護受給者は人間じゃない」

「働けるのに働かないのは怠け者」

「うつだとしても五体満足なら働け」

といったものだ

しかし漫画を読み進めていると生活保護のみんなが怠け者でもないし五体満足だからといって働けるわけでもないと思えてくる。

運悪く生活が苦しくなってしまった人やまじめで不器用で人に利用される人などの弱者もいて一般的な正論は見えないことが漫画からは学べた。

主人公が未熟なケースワーカーというのも良かった。ケースワーカーのことを知らない僕のような人には頼りない主人公に共感しやすかったし、仕事としての正しさと純粋な正義感のはざまで苦しむ主人公を見ていて、ケースワーカーの葛藤や環境を良くも悪くも知れて面白かった。

漫画の中のケースワーカーは生活保護をもらっている人がが死んで

「ま、ここだけの話、1ケース減ってよかったじゃん」

と国民の血税を節約できたことを喜ぶ人がいるように実際のケースワーカーにも同じような人がたくさんいると思う。

ケースワーカーにも規則だからといって困っている人をすんなり救えない歯がゆさがあるし、血税だからというのもわかるけどケースワーカーの相手の気持ちを察する能力不足で自殺未遂まで追い込んでしまうことや生活保護を受けたくても行政から親族に連絡が入ることを恐れて生活保護の申請をあきらめたり、規則も分かるがそれが弱者を苦しめるという理不尽さなど漫画を見ていると伝わってくる。ケースワーカーとしては生活保護で救いたいけど、規則もあり厳しい判断をしないといけなくることは漫画を見るまでは知らなかったことだった。

さらに生活保護をもらいたい人でも生活保護バッシングのような厳しい批判を恐れて助けてほしくてもなかなか言えない現実にも驚いた。

漫画で見せる迷惑をかけたくないという気持ちとプレッシャーを見ていると、今の日本は希薄なつながり社会になっているのかも?と、そんなふうに漫画を超えて現実の問題まで考えさせられた。

ちなみに、漫画では出てこないが、ふと、思い出したのが2007年に病気が理由で生活保護を受けていた男性が福祉事務所からそろそろ働いたらどうかと勧められ生活保護の受給の辞退となりそれがきっかけで死亡したという事件だ。「働けないのに働けと言われた、おにぎり食べたい」と男性が残した日記に書かれていたという。漫画を見ていると相手のことを理解できない人が当たり前に生活保護の対応することや制度自体のおかしさが実際にあるのかもとも思えてくる。

このような歯がゆい現実を目の当たりにする主人公が「大切な何かを忘れている」とぼんやりとも考えながらもどうしていいかわからず時には涙を流しながら生きていく。

主人公の成長を見ながら「頑張れ!」って背中を押したくなると同時に主人公と同じ気持ちになり僕も涙が溢れそうになることがあるほどだ。

主人公の成長物語としても面白いが何よりも面白いのが読者が生活保護について無知だということを思い知らされることだ。
知らない世界は想像できない、そんな当たり前のことを改めて実感させられた。ちなみに好きだったのは3巻と4巻だ。ホラーのような展開で、生活保護申請をしてきた息子を取り戻そうとする虐待親に意外性がありダイナミックに進む展開が良かったのと主人公のまっすぐにひたむきで一生懸命に生活保護者に向き合うこともとても魅力的だ。

漫画を読み終えて考えたことがあった。

それは現代社会はどんな人でも昔以上に生活保護者になりえる社会なのではないか?ということだ。

例えば今の時代は昔の高度成長期のような誰でもがんばればそれなりの暮らしができる時代ではない。大学をでても正社員になれず不安定な正規雇用でしか働けない人も多い。
こんな時代だから働ければいいと考えてブラック企業で働く人も多いかもしれない。しかしブラック企業で働くことが生活保護予備軍にさせることもおおいはずだ。

景気が悪いから安くても労働者をこき使えてしまうからブラック企業が蔓延している社会になり誰もが精神破壊と貧困に叩き落される社会なのではないかということだ。

ブラック企業でつらいことも我慢して続けていればやがて報われるわけではないし、黙って会社にしがみついてもそれなりのリターンがあった時代ならともかく今はそういうものも大して期待できないのに生活保護者に五体満足ならどんな仕事でもひたむきにまじめに労働することを促すことは本当に正しいことだろうか?

まじめであればいい人生を送れるは嘘だと思うし、まじめなら幸せになれるというわけではないしまじめに勉強して立派な大人になれという言葉ほど忠実に実践して不幸のどん底に陥った人が多い気がするのは気のせいだろうか?

貧困も多かったと言われている江戸時代は生活保護もない時代だった。でも人との助け合いがあり世界と比べて貧乏でも幸福に暮らしていることが誇れる時代と言われている。それと比べて今の時代は人と人が冷たくなって幸福を感じづらい社会になっているのかもしれない。

そんなことを考えていたら生活保護者バッシングの

「働けるのに働かないのは怠け者」

「うつだとしても五体満足なら働け」

などというのはおかしなことのように思えてくる。

日本は「過労死」という言葉が世界に先駆けて出てきた国である。
日本人は我慢強いともいわれるし不幸にも労働環境の悪い場所でいるとそれが当たり前になりなかなか別の職場に行こうと思えず我慢し続けてしまう。

漫画の心に残るセリフの一つに

「人間てのは不幸にドップリ浸っていると気力がドンドン奪われて何もかもつらくなって、最後はそこから一歩も動けなくなっちゃうの」

というものがある。

周りを見渡すと不幸が当たり前で不幸自慢する人の多さや自分が不幸なことに気づけない鈍感さ、幸せを感じられない閉塞感などを感じさせてくる。
我慢強いと不幸な境遇に鈍感になりがちなんじゃないかと思う。今の日本は不幸な国ではないのに不幸にドップリ浸かってそこから動けない人がたくさんいるんじゃないかな?と思えてくるのだ。

主人公が歯がゆい現実を目の当たりにし「大切な何かを忘れている」とぼんやりとも考えているように今の日本にも「大切な何か」が抜け落ちてしまっているのだろうか?とそんなことを僕はぼんやりと思いながら読まざるを得なかった。

生活保護が必要な人はどん底の人が多いはずで彼ら彼女達から出てくる言葉は生死に関わる言葉であり最後の救済の言葉でもある。生活保護があれば食べられたおにぎりがあり助かったかもしれない命がある。漫画出てて来る生活保護者のセリフに重みを感じるのも命をかけて発する言葉だからだろう。命をかけた言葉に心を動かされない人間がいるのだろうか?少なくとも僕には無理だ。魂を揺さぶられる思いだった。

漫画では難しいと思える外国人の生活受給者の問題については触れていないのが気になるところだが、とはいえ、まだ読んでいない人はぜひ一度手にとってみてほしいと思う。

こんな感想を書きながら恥ずかしい話が日本は裕福な国だし貧困は少ないと僕は思っていた。日本は他国に比べて社会全体で子供を守り、しかもホームレスの数が極端に少なく安全で安心できる国だと思っていた。実際にアメリカと比べては貧困は少ないかもしれないが、それでも日本にも貧しい家庭があり大きな格差が存在し貧困は確実に存在しているということを忘れてはいけないと思わされた。そして何よりもこのマンガを読んで気づかされたのは家族と人の大切さだ。人は一人ではなかなか生きていけないし支えあいが必要な時だってある。特に景気が悪ければ貧困から脱出しづらくなるだろうし、江戸時代のような絆による助け合いがなければ生活は苦しいだろう。そういう当たり前のことが忘れられているのかもしれないと、ふと思ったのも「競争社会の勝ち負け」や「無縁社会」「少子化」「老人の孤独死」なんて言葉が平然と飛び交う昨今だからこそ改めて思ったことだ。これらの言葉には助け合いや絆を感じない。

驚き、怒り、恐怖、感動し涙が溢れ、心がえぐられること間違いない。
読み終わったあとはきっと生活保護について見方や考え方が変わるはず。

オススメだ!

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