優しそうに見えるお母さんが子供の友達を突き落としてしまい、そこから主人公の静一とお母さんの関係が狂っていきお母さんの対応と気持ちが怖くなってくる漫画。
僕は精神的に迫ってくる恐ろしさが面白くすごいなぁと感じた漫画だ。狂気を描いた漫画は面白く描くのは難しそうだけど絵のタッチもうまく怖さに合っていて普通に見るだけなら怖くない絵なのに漫画を読み続けると怖くなってくる。綺麗なお母さんがどうして人を突き飛ばしたのか、なんで狂った行動をするのか、それに巻き込まれる子供と奇妙な親子関係といとこの関係。どんどんページをめくってはまってしまうほどの内容だった。
表紙からは全く面白いのかわからなかったし、あまり手に取らない感じの絵の調子だったが読むとどんどん惹きこまれていく。全く先が読めず一度見ても良く出来てた内容にまた見たいと思わせてくる。
ただグロいシーンを見せる漫画があるが「血の轍」グロいより精神的にビクビクくる漫画である。ねっとりというか精神的な恐怖をうまくかけていてまた内容が薄っぺらくなく僕の好きな漫画の一つとなった。
何が怖かったかというと
母親の静子が精神的に狂っていて、でも普段はおかしな感じがなくきれいで優しい親。ねじれた狂った愛情のようなものが表現できていて怖くて奇妙で主人公の辛い苦しい気持ち伝わってくる。
全体的に懐かしさをかもし出しながらセピア色が見えてきそうな雰囲気の絵からは静子の笑顔が死んだ人、死んでいく人でも懐かしい良い思いでの人のように見えててただ怖いだけでなく複雑な気持ちになるのだ。そこに純潔のような美しさやセピア感もありでも闇もある怖さ。
静一の雰囲気もセピア感がありながら静一が涙を流すぐらい感情の複雑さがあり面白い。決してインパクトのある派手なシーンでなくどこか現実でありそうな世界観なのに惹き付けられるのは内容と絵の雰囲気が合っているからだろうと思えてくる。
静子は綺麗なのに極端に怖く無表情や顔が歪むことがあり人が変わったような極端さが怖く絵の描き方も現実にはない見せ方を使いうまく感情表現が出来ていると思う。人ってこんなに顔が変わるだけで人が変わったようになるのかと思うぐらい同じ人じゃないような顔に驚かされる。感情にXとyの放物線があるならプラスとマイナスにぐわんぐわん動いてしまう感じである。
主人公の静一の必死さはそこまで子供にさせるのかと可哀想な気持ちになってくる。実際にあったらとても可哀想な話なのだ。
絵の描き方が漫画の良さを出しながら感情表現がうまく出来ていると思う。独特なため見ているだけで面白い。実写トレースのような漫画より描きこみを悪く言えば雑で良く言えば独特だとは思うけど面白くいい味が出ている。
二ページを使って明暗がはっきり分かれているシーンがあり短い「ぎゅっとして」という言葉が長い言葉を並べるよりも深みが出てくる。
さらにこの黒く描かれた木々と白い崖に立つ二人のどっか全体的に寂しい絵からは憂鬱や絶望、そして希望さえも感じてくる。
このシーンからはフリードッヒの海辺の僧侶のような雰囲気さえもある。
海辺の僧侶は広大な空からは希望を表現しているが色と寂しさなどから絶望と作者の苦しさも表現されている。フリードッヒは弟を事故で亡くし、本人も自殺未遂をするなど心に大きな問題を抱えた人物でなくなった弟への悲しみを表わすかのような暗い世界観があり本人の闇とも向き合うかのように人物を描いている。孤独感で悲しいけどどこまでも続く空は永遠の愛のようなものがあるかのようだ。それに似た感じが「ぎゅっとして」というシーンにはあったのだ。
広大な木々は緑が綺麗だと想像して、大きな事故があった場所で寂しく描かれているけど母から子への愛が描かれていると思うと心の光と闇がせめぎあっているように見えて、そこには美しさも感じ面白いと思えてくるのだ。作者は鬱を抱えていただろうか?他にも似たようなシーンを海外の絵画で表現されており作者はやっぱり鬱を抱えている。
何故なのか鬱が含む作品には苦しさだけでなく乗り越えて行きたいという希望と尊ささえも感じてくる。
マンガって馬鹿にならないなぁと思わされた。なんでこの作者、押見修造はこんなにも面白い話が描けて絵の表現も怖さに合っているものが描けるのか。
インタビュー記事によると作者は一人の世界に閉じこもり「どいつもこいつもわかってくれない」「物理的にも精神的にも行くところがない」という点は「血の轍」お母さんの静子や主人公の静一の状況にそっくり。体験談、経験談が漫画に反映されている。思春期の収束しないぐちゃぐちゃの感情から出てきた言葉と感情が本当でそのようなことを漫画を通して表現したいという作者は見る点が面白いと感じる。
自分の人生を見つめ面白い、ネタになりそうな部分を見つけ出し普通に見える人生でさえ何かをみつけて強みに変えてくることは分析、研究がよく出来ていると感じる。
これは普通の人はなかなか普通の人生と思える自分の生活から面白さを何かひっかかる部分を見つけられないが作者はそれを見つけることができているため、それが漫画の魅力になっていると思う。
また「血の轍」へのインタビューでは自分の抱えている問題を表現するためにノンフィクション形式にしているというコメントがある。自分の問題をこんなにも面白くしていくことがすごい。
また作者は自分がマザコンだと言っているためマザコン視点から見る葛藤が独特で面白さを高めていると思う。
ヤバイと思う作品は多くの人が見てもやっぱりヤバイと思う。好みの絵じゃなくてもそれはヤバイと思う
もう作者の他の作品も全部見たいと思えてくる力が「血の轍」にはあった。スクリーントーンも使わず手描きで済ましているところもまた独特でいい。