この映画はホラーコメディらしいけど笑える要素があるというよりアメリカっぽい皮肉のジョークが込められているんだと思う。
どんな皮肉かというと最近アメリカの映画には多いけど分断を描いているということ。アメリカの田舎で住む心の狭い人たちがお互い不信感をつのらせて殺しあってしまう。自己主張の強い人の話を聞き入れないアメリカ人そのものを皮肉っているかのようである。
英語版タイトルのWarewolves WithinはUbisoftのVR人狼ゲームでそのゲームを元にした映画だと思われるが、僕はWarewolves Withinをプレイしたことはないが人狼ゲームは戦略的でなかなか面白いゲームだと知っている。例えば最近ではAmong Usという宇宙船人狼ゲームが世界中で流行っていたし、日本でも今でも人狼殺というゲームが人気でYoutubeでもたくさんの人が動画をアップロードしている。
そんなことからホラーでゲームっぽい映画なのかな?と期待してみるとちょっとがっかりしてしまった。
ゲームっぽいホラーと言えば、Cube、ソウ、サイレントヒル、バイオハザードなどのような映画を期待してしまったが全くそういうものではなかった。
ホラーだと思うと不気味な雰囲気、グロいシーンはあるもののそこまで怖くなくてこれも期待はずれで人狼ゲームのように戦略的なドラマがあるのかというとそうでもない。
最後の10~20分あたりはまぁまぁ盛り上がりもしたけど物足りなさが残る。
監督はコメディアンだけどゲームをしない人らしくゲームをしない人がゲームに関連する映画を作ると微妙になるんじゃないかと思う。過去の似たような映画を参考にもしているらしいけどそれだとゲームっぽくない。アメリカ映画はゲーム好きじゃない人やゲームをやったことがない人がゲームが原作の映画を作ろうとしておかしくなったりするから、やっぱりアメリカ映画のB級映画だからこんなもんなのかなーと思った。
それでも皮肉なメッセージとしてはまぁまぁ面白かった。
映画の撮影は2020年2月から2020年3月までのパンデミックの直前まで行われている。
トランプが大統領の時期に映画製作が行われていて保守批判のような意味が含まれている。
映画の登場人物はお金持ちの男性カップでLGBTキャラクターをあえて含めている。主人公は黒人男性であり、ネタバレになるが狼は女性狼だ。
頭の悪そうな言葉遣いの白人カップルは貧困白人カップルだと思うが、貧困白人はトランプ支持層とまで言われているのと、彼らはいわゆるアメリカの貧困と無教養を代表するレッドネックや白人労働者階級のヒルビリーと言われるような人を意味しているように見える。
これらの貧困労働者階級がトランプ支持者とも言われている。
下品な笑い方や馬鹿そうな行動をする白人の無教養、貧困層とはこういう人かと、思いながら見るのはちょっと面白い部分ではある。僕はそんな人は嫌いじゃないけど、映画はそんな無教養の白人を皮肉っているのである。
他には保守的なカップルが「ヒッピーが(庭に立てた)看板を倒したんだ」、「それはアンティファよ」というセリフがあるように小さな町での小さなケンカは心の狭い人たちを意味しているように見える。そして町は石油パイプラインの問題を抱えている。倒された看板には「We support midland gas」とかかれており、これはトランプがカナダと米国を結ぶキーストーンXLパイプラインの建設計画を承認したことと被らせているようにも思う。ミッドランドはテキサス州にあるガスで有名な都市だ。映画の舞台はバーモント州なのでテキサスではないし実際のバーモント州は石油問題を抱えていないしガス石油を生産していないが、リベラルが強い地域だ。パイプライン建設の承認はバイデン大統領になったあとに撤回されているためリベラルと保守の対立がパイプラインで明確にある。白人の多い地域であり白人ばかりが住んでいるところもあり、そこに現れた黒人主人公。まさにリベラルと保守の対立を見せているのである。
この映画に出てくる保守層の白人は失礼な人たちとして描かれている。言葉遣いだけでなく郵便配達員である狼でもある女性セシリーに冗談でも触ろうとしたり、そのため触ろうとした指は狼セシリーに噛み切られるのである。郵便局員はフェミニスト郵便局員で失礼な男性を拒否し続ける。
人間ではないものが犯人かもしれないと突き止めた人は環境保護主義でもある博士エリスだ。博士は自殺するけど、環境保護という点はとてもリベラルな要素だ。石油パイプラインは環境問題の悪化を懸念しているのがリベラル側で石油パイプラインの計画を賛成しているのが保守だ。上の二人のカップルは石油パイプライン支持者になるので殺されるわけである。
面白いことにLGBT役の体の大きい方が撃たれて倒れた後、しばらくして起き上がり燃え上がる石油ガスの煙突に向けて銃を撃ち爆発させる。石油施設が爆発したことで、殺されそうになっていた主人公たちはたまたま逃げることが出来た。ここは目立つシーンでありLGBTをおいしい役として使っている。アメリカの保守VSリベラルの対立は映画でやりたい放題だ。
そして最後は女性が狼だったという意外な展開。主人公が殺されそうになったときに助けたのが最初は「こいつが犯人じゃないか?」思っていた反政府的で銃で最初主人公を撃とうとしてていた狼の皮をかぶっているの体の大きいナットと自己主張がほとんどなくて存在感が薄くて狼に旦那を殺されたかわいそうな女性ジェニーンだった。
自己主張ばかりして環境問題を考えない人たちは誰が犯人かより自分が生き残ることばかり考えて狼でない人を殺していくのである。映画は自分勝手なアメリカ人が現実にこの状況になれば自分のことしか考えず殺しあうだろうということが言いたいんだと思った。一人の狼から自分を守ることだけを考えて他人の命を気にしないのはトランプ支持層がマスクを拒否し続けた他人の命のことを考えていないことともどこか似ている。(ちなみに僕はトランプを否定したいわけではない。)
狼役でもあるかわいいポジジョンでもあるミラーナ・ヴァイントゥールブは子供のときに親と共にソビエト連邦が崩壊する前に反ユダヤ主義から逃れるためにアメリカに移ってきた人だと言われている。リベラル映画としては適したキャストだと思った。